ご挨拶
新生児集中治療部門は、予定日よりも早く生まれた小さな赤ちゃんを始め、身体に病気(先天性心疾患など)を持って生まれた新生児を治療する専門施設です。小さな赤ちゃんのほかに、妊娠中にお腹の赤ちゃんに異常を認めて出生した赤ちゃんや、生まれた後に病気が見つかって入院になった赤ちゃんなど、治療を必要とする全ての赤ちゃんの治療を行っています。治療には、新生児治療の専門医や熟練した看護師が、症状に応じて新生児外科医等と一緒に赤ちゃんの治療に当たっています。またNICUには人工呼吸器を始め、集中治療に用いる医療機器が多いためそれを管理する専門の臨床工学士などと協力して重症の赤ちゃんの治療を行っています。同時に赤ちゃんの治療だけでなく、不安を抱えたご両親の気持ちに寄り添い、安心していただける温かな支援を行えるよう常に心がけています。何かご不明な点やご質問がございましたら、お気軽にお問い合わせください。
部門紹介
新生児集中治療部門は、新生児集中治療室(NICU)と新生児治療回復室(GCU)から構成されます。
NICUは、重症の新生児を集中治療する室で、1,000g未満の超低出生体重児や外科手術を必要とする赤ちゃんの治療施設です。県内の病院などから出生前に母体搬送され、母体胎児集中治療室(MFICU)に入院後に出生した児や、新生児搬送で入院した児の治療を行います。
NICUでは、人工呼吸器を用いた呼吸管理や循環管理などを行います。NICUでは、医師?看護師のほか、新生児専門の臨床工学士、理学療法士、歯科衛生士、薬剤師などが協力して重症の赤ちゃんの治療を行います。
GCUでは、NICUでの治療は必要としなくなった回復期の赤ちゃんを中心に、退院に向けた治療とご家族の退院前の支援を行います。
極低出生体重児(出生体重1,500g未満) 年間約30~40名
先天性心疾患 年間約20~30名
脳外科疾患 年間約5~10名
小児外科疾患 年間約10~20名
形態異常の疾患 年間約20~30名
【医師紹介】
●西久保 敏也 病院教授(日本小児科学会専門医?指導医、日本周産期?新生児医学会専門医?指導医、臨床遺伝専門医?指導医、新生児蘇生法専門コースインストラクター)
●内田 優美子 講師(日本小児科学会専門医?指導医、日本周産期?新生児医学会専門医、蘇生法専門コースインストラクター)
●釜本 智之 助教(日本小児科学会専門医?指導医、日本周産期?新生児医学会専門医、新生児蘇生法専門コースインストラクター)
●利根川 仁 助教(日本小児科学会専門医、日本周産期?新生児医学会専門医)
●西本 瑛里 助教(日本小児科学会専門医、日本周産期?新生児医学会専門医)
●谷 有貴 助教(日本小児科学会専門医、日本周産期?新生児医学会専門医)
●青木 宏諭 助教(日本小児科学会専門医、日本周産期?新生児医学会専修医)
●角谷 哲基 助教(日本小児科学会専門医、日本周産期?新生児医学会専修医、新生児蘇生法専門コースインストラクター)
●大西 将央 医員(日本小児科学会専門医、日本周産期?新生児医学会専修医)
●小原 綾夏 医員(日本小児科学会専修医)
他に小児科後期研修医3名、産科?婦人科専修医1名
業務内容
早産児や外科疾患を有する児の出産には、新生児科医師が分娩に立ち合います。呼吸状態が不安定と判断されると、鼻専用のマスクや気管内に細い管を挿入して、人工呼吸管理を行います。NICUでは、呼吸状態や循環が安定するまで保育器内で細心の注意を払い治療をします。呼吸や循環管理は、NICU医師で小児循環専門の医師と新生児専門医師が協力して治療に当たります。特殊な呼吸?循環器疾患では、肺胞を広げる人工肺サーファクタント、肺の血管を広げる一酸化窒素、逆に肺の血管を狭くする窒素療法などを行います。
早産児では、児への侵襲を少なくするため、血管内に新生児専用の細いカテーテルから必要な薬剤の投与を行います。また、十分量の母乳が摂取できるまでは、アミノ酸製剤を静脈内に投与して栄養管理を行います。
入院後の赤ちゃんは、お母様のお腹の子宮内に近い状態に戻すため、赤ちゃんの周りをタオルで囲い、照明や騒音を最小限にしたデイベロップメント?ケアを行います。母乳栄養を支援のため、病棟内に2か所の授乳室を設け、助産師による母乳支援を行っています。
新生児外科疾患は多岐にわたりますが、小児外科、脳神経外科、泌尿器科、心臓血管外科、口腔外科、整形外科医等と協力して治療にあたります。当院は先天性心疾患をはじめ全ての外科疾患の治療が行える、県内で唯一の総合周産期母子医療センターです。また、未熟児網膜症や新生児難聴の診断と治療は、それぞれ専任の眼科医や小児耳鼻医が診療に当たります。退院前には薬剤師による薬剤指導を行います。先天異常や遺伝性疾患では、NICUの臨床遺伝専門医が遺伝相談も含めた診療を行います。
退院後も在宅医療を必要とする児は、リハビリ理学療法士、歯科医師、歯科衛生士が理学療法や摂食訓練、口腔ケアを指導します。地域連携課の専任スタッフは、退院前に市町村保健師や県内の多くの小児在宅訪問看護ステーションのスタッフ、在宅リハビリ訓練、在宅保育士など、病院外の関係医療スタッフと院内関係者との退院前カンファランスを主催し、地域での支援体制を調整し家族の不安と負担軽減に努めます。在宅人工呼吸管理など高度の医療介入の必要な児は、退院後の予期せぬ急変に対応できるよう、小児医療センターへ転棟後、小児科医や医療工学士とともに退院後に必要な医療技術や在宅ケアに必要な指導を受けて退院します。
NICU退院後は新生児科医師による新生児外来(毎日)に加えて、臨床心理士による発達外来やダウン症児を対象とした赤ちゃん体操などを行い、児の健やかな発達を願いつつ診療を行っています。
母乳バンク協会、ドナーミルクに関するご案内
早く生まれた赤ちゃん、小さく生まれた赤ちゃんにとって、お母さまの母乳は最適の栄養です。しかしながら、日本小児科学会も、『早産?極低出生体重児において自母乳が最善の栄養であり、早産?極低出生体重児を出産した母親に母乳育児?搾乳支援を提供しなければならない。もし、十分な支援によっても、自母乳が得られない、児に与えられない場合にはドナーミルクを用いる』(一部抜粋)と提言しています。私たちも、お母さまご自身の母乳を最優先していますが、早産された母体は、自母乳が不足する場合があります。そのような際、当院では母乳バンク協会から提供されたドナーミルクを、赤ちゃんに投与しています。
使用している『ドナーミルク』は、母体の問診や血液検査を行い、日本母乳バンク協会がドナーとして適格と認定した方の母乳で、殺菌後に冷凍保存され、当院へ配送されてきます。
極低出生体重児、特に1000g未満でお生まれになった赤ちゃんは、人工乳では腸への負担が大きく、壊死性腸炎という病気や嘔吐?下痢などを生じるリスクが高いことが報告されています。
当院ではドナーミルク使用の同意が得らえた赤ちゃんには、生後早期からお母さまの母乳が届くまでの間、ドナーミルクを投与しています。小さな赤ちゃんに出生後の絶食期間があると、腸管上皮が萎縮したり局所感染したりします。ドナーミルクには感染防御因子や腸管成長促進作用を有しているため、小さな赤ちゃんにとってとても優しい母乳です。このように小さな赤ちゃんの栄養管理を行う上で、ドナーミルクは大変重要な役割を果たしています。
?母乳バンクへのドナー登録について
2020年8月から当院でも母乳バンクのドナー登録が可能となりました。2020年11月時点で計12名のお母さまがドナー登録をされています。完全母乳のお母さまで母乳がたくさん出て余っているという方はぜひ、母乳の寄付をお考え下さい。よろしくお願い申し上げます。
連絡先
奈良県立医科大学附属病院
総合周産期母子医療センター新生児集中治療部門
母乳バンク担当事務係
電話 0744-22-3051(代表)内線 1450
日本母乳バンク協会のホームページへのリンク:https://jhmba.or.jp/
臨床研究について
当院では2018年より極低出生体重児への母乳栄養を標準化する利点に関する多施設共同研究(ADVANCE study)に参加しています。この研究は、奈良県立医科大学の医の倫理審査委員会から承認を得て行っています。当院ではADVANCE study対象の赤ちゃんに加えて、対象より小さく生まれた赤ちゃん、乳児消化管アレルギーなど人工ミルクを消化できない赤ちゃんなど、母乳栄養が望ましいと判断した赤ちゃんのうち、ドナーミルクを使うことをご家族が了承してくださった赤ちゃんにもドナーミルクを使っています。2020年11月までに出生体重が1、000g未満の超低出生体重児や1、000~1、500gの極低出生体重児の赤ちゃんなどを中心に、計54名に使用し良好な経過を得ています。ドナーミルクを使用した赤ちゃんたちは元気にすくすく成長し、NICUを退院しています。