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 vol10 金岡幸嗣朗先生(循環器内科学 医員 / 国立循環器病研究センター オープンイノベーションセンター 上級研究員:国内留学中

 Research Story, vol.10
奈良県立医科大学 循環器内科学 医員 金岡幸嗣朗先生        (国立循環器病研究センター オープンイノベーションセンター 上級研究員 :国内留学中)
【Circulation】2022年 11月,vol. 146(19),1425―1433

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論文タイトル:
 Features and outcomes of histologically proven myocarditis with fulminant presentation.

 組織診断された劇症型心筋炎患者の特徴と転帰

2022年11月8日に、Circulation(IF=39.922, 2021年)に金岡先生の論文が掲載されました。アメリカ心臓協会が発刊するCirculationは心臓、血管関連のトップジャーナルとして知られています。今回は論文の内容をお伺いすると同時に、発表に至る裏話や今後の抱負などをお聞きしてきました。

 

?今回の論文の骨子について専門領域以外の方でも理解できるようにご紹介いただけますか。

→心臓に炎症を起こす心筋炎は、ウィルスや自己免疫などがその原因として考えられています。最近では、コロナウィルス感染やワクチン接種と関連して、心筋炎という言葉を聞いた方も多いのではないでしょうか。とはいえ、心筋炎自体の自然発症数は10万人あたり数人程度と見積もられる希な病気です。心筋炎では発熱、胸の痛みなどの症状が知られているものの、重篤化することなく自然に回復される場合もあります。一方で、一部の患者さんでは症状が重篤化し、死亡にいたるケースもあります。心機能が低下し昇圧剤や補助循環装置を要する心筋炎を劇症型心筋炎とよび、重篤化した患者さんを早く適切に診断治療することは臨床的に重要です。心筋炎は、近年広く認知されるようになった疾患ですが、国内での正確な発症数や劇症型心筋炎患者さんの死亡率などの基礎的なデータは十分に蓄積されているとはいえませんでした。

今回の論文では、劇症型心筋炎について日本全国の医療施設235機関から344人分の患者さんの情報を収集、分析し、現状を明らかにすることができました。海外からの報告では、大規模な施設からの100-200例程度の報告はありましたが、今回、日本のみからではありますが、日本全国の施設から症例登録をいただくことで、悉皆性(しっかいせい)のより高い結論を導き出すことができました。「悉皆性が高い」とは、今回得られた結果は、日本国内の多くの患者さんにあてはまるという意味です。今回の研究から、どのような背景の劇症型心筋炎患者さんの’死亡または心臓移植のリスク’ が高いのかを明らかにすることができました。このような劇症型心筋炎に関する基本情報が今後の患者さんのリスクの層別化や、治療に向けた研究に活用されることが期待されます。

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          (金岡先生)


②【Circulation】に論文が掲載されることになった評価ポイントについて、ご自身はどのような分析をしておられるでしょうか。

→大きく2つの点が評価されたと考えています。1つは、劇症型心筋炎について悉皆性の高い大規模な調査をした点です。先ほどお話ししたように、劇症型心筋炎はこれまでのところ、まとまった数の患者さんに関するデータがありませんでした。今回、北は北海道から南は沖縄まで国内の医療施設235機関に広くご協力いただき、本疾患について大規模な調査を実施できました。ご提供いただいたデータの解析から、悉皆性の高い基礎データを導き出すことができました。これまでの海外等での知見では、高次医療施設(より重症な患者を受け入れ対象とする医療施設)を中心とした報告が多く、患者数にも限りがあることから、リアルワールド(軽症の患者も幅広く含む現状)を把握できる情報として利用するには困難な点がありました。今回の大規模調査から導き出した基礎データは一般的な患者像を反映していると考えられ、その点が、まず評価されたと思います。

2点目は、心筋炎の病理画像を中央施設で複数の専門家が読影し、病理学的重症度に基づく新たな重症度指標を示すことができたことです。今回の研究では、奈良県立医科大学の3名の専門家が1人1人の患者さんの病理画像を再度確認して、重症度評価を行いました。その結果、心筋のダメージの程度と、患者の予後の関連について明らかにすることができました。病理画像が予後予測指標になるという視点での報告はこれまでなく、論文の査読者からも高く評価されたと考えています。

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?今回の研究で特に苦労されたことがあれば教えてください。

→やはり何と言っても、全国規模でレジストリ(患者登録)を構築することに苦労しました。全国の医療施設に今回の研究を説明しご協力いただいたわけですが、1例でも多くの症例をご登録いただくことが重要と考え、手紙や電子メール、電話などの様々な方法で登録率を上げようと試みました。本研究をご提案いただいた斎藤能彦前教授をはじめ医局員の先生方にも施設のリクルートを手伝っていただきました。また、当時は倫理審査も各施設での承認が必要でしたので、ご尽力をいただいた協力施設の先生方にも改めて感謝を申し上げる次第です。私自身、このような多数の登録研究は初めてで、どう進めていくかも手探りの状態からでしたが、大変貴重な経験ができました。今回の研究で学んだ経験に基づき、多施設研究の相談を受けた際には、より適切なアドバイスができるよう心がけております。

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              (インタビューの様子)

④この研究を始められた動機、またこの分野を専攻された経緯についてお聞かせください。

→医師として臨床に携わるだけでなく、大学院で研究をしてみたいと考えて、大学院に進学しました。当時、研究テーマについて循環器内科の前教授である斎藤能彦先生に相談したところ、大規模データベース(JROAD-DPC)を使った研究をしてはどうかとご提案いただきました。JROAD-DPCは日本循環器学会が行なっている全国の循環器疾患の入院に関する病名や診療行為などをデータベース化したものです。研究を進めていくうちに、JROAD-DPCは我が国の循環器疾患の実態と直結する重要なデータベースであると認識するとともに、一方で、既存のデータベースでは解決できない課題があることを認識しました。そこで、既存の研究でリサーチギャップがある比較的まれな疾患を対象にすることで、世界的にもインパクトを与える研究ができるのではないかと考え、劇症型心筋炎を今回の研究対象に選びました。

私自身、患者さんを助ける医師という職業は大きなやりがいがあると考え医学の道を目指しました。医師となって研修をする中で、心臓という臓器はまだわかっていないことが特に多いという印象を受け、心臓の疾患のことをより深く知りたいという思いから循環器内科を専門にしました。私は、臨床医としては不整脈のカテーテル治療を中心に診療をしており、劇症型心筋炎を専門にしていたわけではありませんでしたが、今回の研究も、まだわかっていない循環器疾患の一部分を明らかにすることに少しでも貢献できればこれ以上の喜びはありません。

   

⑤今後の先生の目標についてお伺いします。研究内容等について差し支えない範囲でお話いただけるでしょうか。

→私は、2021年から国立循環器病研究センター オープンイノベーションセンター 情報利用促進部に国内留学という形で所属しています。ここでは、JROAD-DPCの事務局をはじめ、様々な循環器病のレジストリを運営しています。我々の部署では、ビッグデータを使った臨床研究を行なっていますが、多くの循環器医が自らのアイデアで解析結果まで行き着くことにはまだ少し壁があるように感じます。例えば、データへのアクセスや費用、倫理面の問題、コーディング技術(データベース言語等を用いてデータの解析を行う技術)等の様々な問題があります。今後は、より多くの臨床医?研究者の先生方に使ってもらえるような、ユーザーフレンドリーかつ、有意義な研究ができる環境やデータベースを構築することに貢献したいと思っています。現在行なっている、JROAD-DPC公募研究では、ビッグデータを扱う専門知識が少なくても、研究者が自らのアイデアを論文化して完結できるような支援をしています。

 

⑥最後に、本研究を進めるにあたって多くの方々のご協力があったと思いますが、特に感謝をお伝えしたい方があればお聞かせください。

→本研究は奈良県立医科大学で立案、実施したものです。この研究テーマをご提案いただいた循環器内科学名誉教授の斎藤能彦先生に改めて感謝いたします。また、本研究をご指導頂いた循環器内科学、講師の尾上健児先生をはじめとして、ご支援いただいた講座の先生方に感謝いたします。

また、国立循環器病研究センター情報利用促進部のスタッフの方々にも感謝しております。本研究を進める中で交流を深めさせていただき、データベース?レジストリ研究にさらに取り組みたいという思いから国内留学を希望したところ、快く受け入れていただきました。本研究においても、情報利用促進部のデータ抽出やレジストリ構築に関する専門的なサポートをいただいたからこそ、研究を順調に進めることができたと考えています。

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以上

<インタビュー後記>

 大変気さくな先生で、とても楽しくインタビューさせていただきました。一方で、研究に関しては優れた戦略家としての印象を持ちました。どのようにすれば世界と戦える研究になるのか、そこからスタートし目標に向けて最後の一手まで緻密に計算されている姿は棋士のようでした。また、難しい内容もすんなりと頭に入ってくる理路整然とした話し方に、いろいろな問題がきちんと整理された先生の明晰な頭脳を見るようでした。医学分野においてもビッグデータを使った研究がどんどん進んでいますが、循環器分野での活用はまだ少ないとのことです。集めたデータは公共の財産であり、どんな研究者がどこにいても利用できるそんな橋渡し的存在になりたいと研究を進めている先生の頭には既に緻密な戦略が練られているように思いました。先生の今後の益々のご活躍を期待しています。

(インタビューアー:研究力向上支援センター特命准教授?URA上村陽一郎 
URA 垣脇成光)

【Circulation】:アメリカ心臓協会が発刊する心臓、血管関連のトップジャーナル(外部サイトへリンク)(外部サイトへリンク)

【金岡幸嗣朗先生の論文】:【Circulation】2022年 11月,vol. 146(19),1425―1433 Features and outcomes of histologically proven myocarditis with fulminant presentation.(外部サイトへリンク)

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